コラム

スポーツの楽しみは勝負だけじゃない

企業とDo Sports


東洋経済オンライン編集長 武政秀明氏

2021年に開催されるワールドマスターズゲームズ2021関西は、プロ、アマ問わず誰もが参加できる4年に一度の国際大会です。東京オリンピック・パラリンピックの翌年に開催されることもあり、日本全国にスポーツへの関心が高まると予想されています。 そこで、月間2億PV(ページビュー)を誇る国内トップクラスの経済ウェブメディア『東洋経済オンライン』の編集長で、過去4回フルマラソンに出場し、いずれも3時間を切るタイムを記録した本格ランナーとしても知られる武政秀明編集長に、経済ウェブメディアとしてのスポーツの見どころと、個人で楽しむスポーツの魅力についてお話をうかがいました。

ネットメディアの読者はスポーツへの関心が高い

編集部  :
『東洋経済オンライン』は経済メディアですが、これまでスポーツをどのように扱ってこられたのでしょうか。

プロアスリートのセカンドキャリアという切り口で取り上げた記事。3000超のシェアがされた。

武政編集長:
ネットメディアの読者は、スポーツに対する関心が高いため、スポーツの話題は積極的に取り上げています。ただ私たちは経済メディアですから、ストレートなスポーツ記事ではなく、経済の視点を活かした記事――たとえばセカンドキャリアの問題とか組織論、あるいはスポーツに関わるお金の話やスポーツ関連企業の戦略などの切り口で取り上げることが多いですね。

経済メディアと言いながらも経済専門紙が取り上げる日々のマーケットの動きから少し幅を広げて、エンターテインメントや国内の事件、事故などの話題も私たちの切り口で取り上げています。そういうジャンルの1つとしてスポーツを捉えています。

最近だと元サッカー日本代表の加地亮さんがオープンしたカフェの話題を、プロアスリートのセカンドキャリアという切り口で取り上げた記事は、よく読まれました。

またTBSさんの『プロ野球戦力外通告~クビを宣告された男達』という番組とコラボしている、男の仕事論としてまとめた記事も反響をいただいています。

それ以外では昨年、箱根駅伝の話題にちなんで、靴底に関する記事を作ったことがありました。同じタイミングで昨年当社が出版しヒットした単行本『SHOE DOG(シュードッグ)』の話題に絡めた記事でしたが、こちらも多くの方に読んでいただきました。

 

スポーツにはそれぞれの楽しみ方があっていい

編集部  :
今年から3年に渡り日本でスポーツの国際的な大会が開催されます。今年は「ラグビーワールドカップ2019」、来年は「東京オリンピック・パラリンピック」。続く2021年に「ワールドマスターズゲームズ2021関西」が日本ではじめて開催されます。
武政編集長:
この3年間はスポーツの話題が多くなるのは間違いないでしょう。3大会を経済効果で見ると、東京オリンピック・パラリンピックが20兆円。それに対してWMGは1461億円と少ないですが、競技者数では5万人と圧倒的に多い。私はその参加人数の多さに着目しています。

プロもアマチュアも関係なく世界中から何万人ものスポーツ選手が日本に集まり、世界大会が行われるというのはスポーツ人口を増やす意味でも意義のあることだし、個人的にもとても楽しみです。
編集部  :
武政編集長は本格的なランナーとして知られています。スポーツをする側からの視点として、一般の方がスポーツに参加することに意義を感じられますか。
武政編集長:
私自身のことをいうと、ここ5年ほどは仕事が忙しくて大会に参加しておらず、健康と体型維持のために週末に20~40 km ほど走っているだけです。しかし、大人になってランニングを再開して、スポーツというのは誰もがやっていいものなんだと、強く思うようになりました。

というのも、中学、高校と真剣に中・長距離の選手として陸上部で練習を重ね、高校時代には市の大会で1500m走のチャンピオンにもなれたのですが、大学で続けようとは思えなかったんです。競技としてのスポーツはもうご免だと思いましたから。
編集部  :
陸上をやめようと思った原因があったのでしょうか。
武政編集長:
スポーツ界の現実を考えたからです。自分にそんな実力はとてもなかったですが、そのまま陸上を続けてたとえば箱根駅伝に出られたとしても、その後は実業団に入るしかなかったわけです。野球やサッカーのように巨額の年収を得ることもありません。

しかも、実業団で走れなくなったら、会社を辞めなければならない。子どもの頃からトレーニングを重ねてある程度の業績を上げられても、最後がそれでは悲しいですよね。

人気スポーツでも選手生命は短命です。みんな若くして引退し、そこからはプレーヤーとしての活動をしなくなる選手が多い。将来を見据えた時に、ずっと陸上を続けたいとは思えなかったんです。

ところが大人になって、自分なりの目標を持って走ってみると、これが楽しいんですよ。
編集部  :
純粋にスポーツが楽しいという経験をしたことで、誰もがスポーツを楽しめるようになってほしいと思うようになったと。
武政編集長:
そうですね。スポーツってそれぞれの楽しみ方があっていいと思うんです。マラソンで3時間を切る人の割合はわずか全体の2%弱しかいません。でも7時間内という制限時間の中で完走する人は90%以上もいます。完走するだけでも一般の人からしたらすごいことです。

とかくスポーツは、年齢を重ねるごとに、特別な成績を上げた一部の人のものになってしまう風潮が日本にはありますよね。でも学校とか組織とか企業とか、そういうものを背負うことなく、それぞれが自分なりの目標を見つけて長く楽しんでやればいいじゃないかと思うようになりました。

たとえ第一線を離れても、楽しめる。WMGはスポーツをいくつになっても純粋に楽しむマインドを、日本の国民に根付かせるきっかけになってほしいと期待しています。

フルマラソン克服のためにPDCAを回す

編集部  :
社会人になってからフルマラソンを走るようになったきっかけは何だったのでしょうか。

週末にランニングをするのが習慣に

武政編集長:
いろいろな要因が重なってのことです。30歳を過ぎてちょっと体もふっくらしてきて、体力の低下も感じるようになり、運動した方がいいなと思っていたんです。ちょうどその頃、2007年の第1回東京マラソンが開催されることになり、市民マラソンが注目された影響もありましたね。

さらにその東京マラソンで、高校時代に陸上部で同じチームだった友達がフルマラソンを走って3時間を切るタイムを出したんです。それを見て、自分の経験でもフルマラソンを走れるのかもしれないと思ったのも1つの要因でした。

当時、引っ越しをした先にランニングするのにちょうどいい公園があったこともあり、いろいろな要因が重なって、14年ぶりに再開することにしたんです。
編集部  :
14年ぶりとなると、最初はきつかったでしょう。
武政編集長:
体が錆び付いていて、少し走ると息は上がるし、足は痛むしといった状態でした。それでもちょっとずつ続けていると、体が動くようになっていったんですね。半年ほどたったころに出版健康保険組合が主催するロードレース大会があることを知り、それに出場してみたんです。

5㎞のレースでしたが30代の部で優勝しまして、それをきっかけに陸上大会に出場するようになり、やがてフルマラソンに挑戦するようになったという経緯です。
編集部  :
フルマラソンの経験ゼロでのチャレンジだったのですか。
武政編集長:
はい、それまでフルマラソンを走ったことはありませんでした。ランニングを再開した当初も、まさか自分が走れるとは思っていなかったですね。でも、少しずつトレーニングを重ねて、10㎞レースやハーフマラソンの大会に出るようになってから、チャレンジしてみようと思うようになりました。
編集部  :
過去に4回フルマラソンに出場して、すべて3時間を切ったそうですが、一般の人から見れば驚異的なタイムです。
武政編集長:
走るということにはそれなりの知識や経験があったので、なんとか記録は出せたのですが、マラソンにはマラソンのセオリーがあり、それを知らないと思ったような走りができないし、タイムも出せないんです。

しかし最初はそんなことなど知らないまま出場し、結果的に出場した4大会ではすべて3時間を切ることはできたものの、その内容はまったく違っています。大会に出るたびに課題を見つけ、それを解決するための仮説を立てては検証するというPDCAサイクルを繰り返していった感じですね。

その努力の積み重ねは、WEBメディアの運営ととても似ていて、仕事にも大いに役立ちました。

乳首が擦れて出血することからも教訓を得る

編集部  :
仕事にも活かされたというのは、具体的にはどういうことだったのでしょうか。
武政編集長:
実は3時間を切れたレースでも、最初の2回は大失敗しているんです。それは前半と後半のペース配分を間違っていたり、30㎞を過ぎた時からのエネルギー補給に失敗し、最後は「ハンガーノック」と呼ばれる、いわゆるガス欠を起こした状態に陥ったりなどなど、非常に苦しいレースでした。

当初は原因がわからなかったのですが、金哲彦さんという方の著書を読んだとき、私のやり方が間違っていたことがわかりました。そこには準備や調整の仕方から、当日のレース展開とエネルギー源の取り方、坂道の上がり方まで、42項目に渡って極意が書かれていました。

つまりフルマラソンを走るにはセオリーがあり、知識と緻密な計画がなければ42.195km は走りきれないということがわかったんです。

それがわかったことで、課題を1つずつ克服し、3回目となる2012年の勝田全国マラソンでは2時間49分11秒と、目標だった2時間50分を切ることができました。この経験からセオリーを知ることの重要性を知りました。それがWEBメディアを運営していく上においても非常に重要なことなんです。
編集部  :
具体的にはメディア運営にどのように役に立ったのでしょうか。
武政編集長:
例えば1つの記事が非常によく読まれたとします。そうすると必ずそこには成功の要因があるわけですね。タイトルなのか切り口なのか、それとも掲載するタイミングなのかと、徹底的に分析する。そしてある仮説を立てます。

例えばタイトルが良かったと思ったなら、別の記事でも同じようなタイトルをつけてみて、どれくらい読まれたかをチェックする。

切り口が良かったのだとすれば、違うテーマの記事でも同じ切り口でやってみる。そして読者の反応を見る。WEBメディアがいいのは、どの記事でどれほどの閲覧があったか正確に数字で把握できるところです。そうしてPDCAを繰り返すことで、読まれる記事の作り方、配信の仕方、タイトルの付け方それぞれにセオリーができ上がっていくということです。

「東洋経済オンライン」は試行錯誤しながらも小さな仮説と検証を繰り返し、そのデータを蓄積することでセオリーを見つけてきました。

そしてもう1つ、ほんの些細な工夫を継続することの大切さも身をもって学びました。
編集部  :
身をもってとは、どんなことでしょうか?
武政編集長:
実はフルマラソンを走っているとユニフォームで乳首が擦れて、出血してしまうんです。陸上部で6年間と、社会人になって数年間、いろんな大会に出場しましたが、こんな経験をしたことはありませんでした。

もちろんニプレスを貼ればいいわけですが、私が興味を持ったのは10kmレースやハーフマラソンではそういう現象が起きないのに、フルマラソンではそれが起きるということでした。

WEBメディアも毎日のほんのわずかなタイトルの工夫、内容の選び方、切り口の工夫の継続が、やがてとんでもない差を生むというのは同じです。

『東洋経済オンライン」ではそれを教訓に、小さな工夫を日々繰り返してきました。その結果、2012年に月間500万PVだったのが、今は2億PVまで成長しました。その道のりは地道な仮説と検証の繰り返しでした。

スポーツは「孤独」という社会問題を解決する

編集部  :
今年からのゴールデン・スポーツイヤーズの3年間で、特にWMGについてはメディアの目線からどういった点に注目していますか?
武政編集長:
優勝チームや優勝者の方の仕事、スポーツを続けるための働き方などは面白そうですね。また、かつての一流選手が活躍すれば、現役を退いた後もスポーツを楽しんでいる、その暮らしぶりを取り上げるというような企画が考えられます。

個人的にスポーツに関連する話題で関心があるのは孤独の問題です。今、社会に孤独感が広がっていて、孤独死が年々、増加していますが、これはITが進んだことによって、人と関わらなくても生活ができるシステムが整ってきたことによります。誰とも関わらないで生活している人が増えています。同時に結婚できない若者も増えていますよね。

そこには年収の低下などの経済的な理由があるのですが、たとえ人がどんな状態であろうとスポーツは人と人を繋ぎます。そこにコミュニティが生まれます。誰かの姿が見えなければみんなで気にしたり、誰かが苦境に陥ったらみんなで助け合えたりするような社会を作ることができると思うのです。

WMGをきっかけにスポーツに参加することで、孤独が解消できる動きなどあれば、取り上げたいですね。

スポーツ人口を増やすには働き方の定義を変えるべき

編集部  :
日本ではまだスポーツが「みる」楽しみであり、なかなか「する」楽しみになっていない状況がありますが、これから日本で人々がスポーツに親しんでいくために何が必要だと思いますか。
武政編集長:
日本でスポーツをする人が増えないのは、時間がないことが大きな原因だと思います。ですから私は働き方改革との関連で考えるべき話題だと思っています。

日本には労働時間=成果という考え方がいまだに根強いですよね。しかしこれは働き方の定義が間違っていると思います。

大事なのは労働生産性を高める働き方に変えることです。そのためには何を成果とするのかを明確にし、成果を生むためのプロセスを見直す必要があります。そもそも残業しないと仕事が終わらないのであれば、余計なことを会社がやらせている可能性もあるわけです。

例えばITを活用した効率的な働き方のモデルを作るといったことも必要でしょう。そういうところを見直して働き方を改善し、人がスポーツをする時間を生み出すことで、人々もスポーツに親しめるようになるんじゃないでしょうか。

私の経験から言えば、スポーツをする時間を創れば、人の仕事も効率化するのではないかと思うんですよね。それに予防医療という観点でも人がスポーツをする時間を作ることは国全体にとって大きな経済効果を生むはずです。

スポーツで人が健康になり、医療費の削減もできて、なおかつ仕事の質も上がるというメリットが見えているのだから、人がスポーツをする時間が作れるよう働き方を変えることは重要です。WMGが人々にスポーツをする時間の大切さや楽しさを伝えることで、働き方をみんなで見直すきっかけになることを期待しています。

武政 秀明編集長 プロフィール

1998年関西大学総合情報学部卒。
国産大手自動車系ディーラーのセールスマン、日本工業新聞(現フジサンケイ ビジネスアイ)記者を経て、2005年東洋経済新報社に入社。
2010年4月から東洋経済オンライン編集部。東洋経済オンラインの2012年11月リニューアルに携わり、ヒット企画の連発やアクセス動向の分析、ノウハウ共有などの面でサイトの躍進に貢献。
2016年4月から東洋経済オンライン副編集長。2018年12月から東洋経済オンライン編集長。趣味はランニング。
フルマラソンのベストタイムは2時間49分11秒(2012年勝田全国マラソン)。

コラム一覧へ戻る