コラム

「する」スポーツには人と人を繋ぐ効果がある

企業とDo Sports


週刊ダイヤモンド編集委員 深澤献氏

2019年ラグビーワールドカップ、2020年東京オリンピック・パラリンピック、2021年ワールドマスターズゲームズ2021関西と、国際的なスポーツ大会が3年続けて日本で開催されます。この3年間は「ゴールデン・スポーツイヤーズ」と呼ばれ、国民のスポーツ人口の増加、それに伴うスポーツ産業の振興、健康増進など、様々な効果が期待されています。
日本を代表するビジネス誌『週刊ダイヤモンド』の編集委員で、フルマラソンランナーとしても業界内で知られる深澤献氏に、ゴールデン・スポーツイヤーズを迎えるにあたっての期待や課題、まだビジネスとしてどのように捉えているかをうかがいました。

経営者の考え方にはスポーツの影響が色濃くうかがえる

編集部   :
スポーツビジネスについて、これまで『週刊ダイヤモンド』ではどのように扱ってこられたのでしょうか。
深澤編集委員:
『週刊ダイヤモンド』は各産業で起こっている変化を取材し、数字でもって分析し説明していくことを使命としています。そしてこの変化の時代に求められる「チェンジ・リーダー」を読者像に掲げています。チェンジ・リーダーとは時代の変化に合わせて、自分の会社や組織を変えていける人のことです。組織の規模や年齢を問わず存在するこのようなリーダーに対して、誌面を通して有用な情報を提示したいと考えています。
スポーツに関しては、やはりビジネス誌なので、全面に打ち出す企画はあまりありません。これまで第1特集で「スポーツビジネス」をテーマに取り上げたことは2、3度ありますが、残念ながら販売部数は伸びませんでした。まだまだスポーツビジネスに直接携わっていたり、関心を持つ人は少ないと感じています。
編集部   :
やはりビジネスとスポーツの結びつきは弱いのでしょうか。
深澤編集委員:
ところがそうでもありません。「日本の産業」+「リーダー」という切り口で企画を作っていく際、実は「スポーツ」というキーワードは欠かせないのです。
私たちは経営者のインタビューを数多くしていますが、リサーチ項目の1つとして「その人物がどのようなスポーツをしてきたか」は意識することが多いです。
スポーツがその経営者のバックグラウンドとなり、人柄や考え方を形成する上で非常に影響力を持っているためです。企画の表には表れていなくても、取材活動において常にスポーツを意識していると言っても過言ではありません。

「サブ4」のマラソンランナーになるまで

編集部   :
ご自身もマラソンを走られていると聞いています。
「サブ4」(3時間台でフルマラソンを走るランナーの敬称)だそうですね。

フルマラソンをする深澤編集委員。
現在は4時間を切ることも。

深澤編集委員:
といっても3時間台の後半です。
編集部   :
フルマラソンで4時間を切るのは並大抵ではないと思いますが、マラソンを本格的に始められたきっかけは。
深澤編集委員:
気の迷いです(笑)
2010年の夏のことですが、夜、焼き肉を食べすぎましてね。ふと「走ってみようかな」と思ったんです。帰宅して軽く走ってみたら2㎞もいかないところでゼーハーしてしまって、「あれ? 俺、ダメじゃないか」と。
編集部   :
自分ではもっといけるつもりだった。
深澤編集委員:
実際ここまで走れないとは思わなかったんです。
試しに翌日も走ってみたんですけど、大して変わらない。靴が悪いのかと思って、ランニング用のシューズを買いました。量販店に置いてある安価のシューズなんですが、それをきっかけに毎日走るようになり、その日のタイムをSNSで伝えることが日課になりました。

するとある日、「結構速いよ。大会に出てみたら?」という反応をもらったんです。それで出版健保(出版健康保険組合)主催の皇居2周のレースに出場したのが最初です。距離にして10㎞、参加費も300円ほどだったので、これくらいならと思って出たんです。走り始めて半年たった頃のことでした。
編集部   :
結果はどうだったのでしょう?
深澤編集委員:
それが40代後半のカテゴリーでは優秀だったようで、出版健保から、東京総合健保の大会に推薦されたんです。参加費の1500円は出版健保が出すから、と。言ってみれば出版業界代表の招待選手じゃないかと気を良くして出場しました。それを機に、市民大会にも出場するようになりました。ハーフマラソンに何度か出て、そのうちフルマラソンを走るようになったという経緯です。
編集部   :
“気の迷い”で始めてもう8年。継続してこられた理由は何でしょうか。
深澤編集委員:
振り返ると、走り始めた当時は仕事で相当、ストレスを抱えていたんですかね。走らないとやってられない、という感じでした。また企画会議の後などは、深夜1時に帰宅しても頭だけ冴えていて眠れないということもよくありましたから、帰宅したらまず走って、汗をかいてから寝る、というスタイルが次第に定着していったんです。
ちなみに今は週末に軽く走るだけです。そういう意味では当時に比べて今はストレスが少ないのかもしれませんね。

スポーツには人と人をつなぐ効果がある

深澤編集委員:
マラソンを始めていろいろな変わったことはありましたが、意外だったのは地元で友人ができたことです。
子どもが小学校のとき「父親の会」がありまして、そこでチームを作ってリレーマラソンを走る大会に出るようになったんです。たとえば10人が1人約4 km を走る大会だと、全員で「3時間半」で40kmを走り切ります。ひとりではとても出せないタイムが出せるんです。
同じ年の子どもを持つ父親たちですから、世代も同じようなもの。週末に集まって一緒にトレーニングをしたり、レースの後は打ち上げでお酒を飲んで、みんな自宅は同じ方向だから一緒に歩いて帰る、みたいな学生の頃のようなつきあいができるんですよ。
大人になってから地元で友達ができるというのはいいものです。人生100年時代と言われますが、地元に友達ができるとその後の生き方も変わると思います。
編集部   :
スポーツは地域にコミュニティを生むきっかけになるとはよく言われることですが、その効果を実感されているのですね。
深澤編集委員:
スポーツには人と人をつなぐ効果があります。それも「みる」だけではなく自分で「する」からです。スポーツの最終的な面白さは「する」ことにあると思います。

「みる」は「する」に繋がる

編集部   :
2019年から2021年にかけて国際的なスポーツの祭典がここ日本で開催されます。最初の2つが「みる」スポーツ、最後のWMGは「する」スポーツということで、「みる」「みる」「する」と繋がっていきます。
深澤編集委員:
言われて初めてそのことを認識しましたが、その順番はいいですね。というのも人は「みる」ことでやりたくなるからです。私も、Jリーグが日本で始まった時、サッカーの経験もないのに、知人が勤める新聞社の草サッカーチームに頼み込んで入れてもらったことがありました。
全国的にサッカーが盛り上がっていて、テレビでも試合をよく目にするようになると、「そんなに面白いものなら自分もやってみたい」と思ったんです。「みる」から「する」につながった好例ですね。
「ゴールデン・スポーツイヤーズ」の「みる」「みる」「する」は「ホップ・ステップ・ジャンプ」のように、市民がスポーツを始めるきっかけになるんじゃないでしょうか。
編集部   :
WMG は大阪を中心に関西圏で開催されます、それだけなく四国、山陰、北陸と開催地も広がっています。こうした動きについてはどのように感じますか?
深澤編集委員:
スポーツは本質的に地域との結びつきが強いと感じます。
再びJリーグの話題になりますが、Jリーグが発足した時、運営側は100年構想を語り、チーム名に企業名を入れず地域名にすることに強くこだわったんです。「100年だなんて随分、遠い未来のことだな」と当時の私には今一つ理解できませんでしたが、あれからおよそ四半世紀たってみると、その意味の深さがよく分かります。

日本の産業界は再編に次ぐ再編で、すでになくなった企業もあれば社名が変わった企業もありますし、合併した企業もあります。もしあの時に企業名をチーム名にしていたら今どれくらいのチームが残っているかわかりません。

「地域の名前」=「地域の活動」だからこそ、世代を超えた人が応援し続けるわけです。そこから一歩進んで、各地域で市民が気軽にスポーツに参加できる「する」スポーツになれば、それが地方創生にも繋がるように思います。

スポーツの投資効果に注目したい

編集部   :
「ゴールデン・スポーツイヤーズ」を迎えて、『週刊ダイヤモンド』ではスポーツをどのように取り上げていく予定でしょうか。
深澤編集委員:
当然、各イベントの経済効果には注目します。その一方で使用されなくなった施設をどうするのかという問題もありますね。
「みる」だけのイベントだと、インフラ投資と期間中の消費だけで一時的な経済効果しか期待できません。それが「する」イベントであるWMGの効果で、市民がスポーツに親しむ土壌ができれば、その後もずっと市民に利用される生きた施設になります。それが町おこしに繋がることにもなるでしょう。
そうなればスポーツを核にした新しい投資効果として注目に値するんじゃないでしょうか。「みる」「みる」「する」の流れがどれくらいできるのか、どんな効果を生むのか、注目したいところです。

スポーツに関連した企画なら、「どのスポーツをすると、一流のビジネスパーソンになれるか」なども面白いと思います。「大学で何を学んでおくと世の中で役に立つか」ということはよく議論されますが、そのスポーツ版ですね。

例えばラグビーの経験者は、チームで一つの成果を出すという発想を自然に身につけている人が多いですね。ラグビーは究極のチームスポーツで、トライをした人だけがえらいわけじゃなく、全員でそのボールを繋いだ結果という考え方が徹底しています。

局面によってはボールを持った選手を前に行かせようと、身をていして敵にタックルする。そうやって目立たない場所にいる人も自分の役割をまっとうした結果が1つのトライを生むことがわかっている。実はこれ、「バリューチェーン」の考え方と同じなんですよ。新商品や新サービスのアイデアを出す人、それを作る人、お店に届ける人、売る人、とそれぞれが自分の持ち場をしっかりと務めることで、消費者に商品を届けることができる。誰がえらいわけではなくて、関係業種が一丸となって成果を出すという考え方と同じです。
編集部   :
大きな連携の中で、自分に与えられた役割を果たすという発想が自然にできるのですね。
深澤編集委員:
そう思います。しかもラグビーは大学で始める人が多く、文武両道の人が多いんです。「ラクロス」なども同じですね。野球やサッカーのように幼少期から才能を発揮したスポーツ偏重の選手が少ない。しかもラグビーは、フェアであることを重んじる紳士的なスポーツです。ラグビーを経験してきた人は組織で成果を上げるということをよく理解していると思います。

一方でテニスなど個人スポーツをやってきた人は、またそれとは異なる発想をする人が多く、リーダーシップにも明らかに違いがあるように感じます
編集部   :
経験したスポーツごとにリーダー像が違ってくるのは興味深いですね。

スポーツは人それぞれのスタイルで楽しめばいい

編集部   :
深澤編集委員はマラソンが何かに役立っていると感じますか。
深澤編集委員:
慌ただしい日常から抜け出して、一人の時間を持てるということが貴重ですね。仕事のことは忘れてというより、走りながら企画のことや原稿のアイデアを考えていることがけっこうあります。もちろんそれはマラソンだからできることで、テニスなどの球技ではそうもいかないでしょう。最近は落語を聞きながら走ることが増えました。いい気分転換になります。
編集部   :
スポーツ庁では女性が継続的に運動をすることも推奨しています。その点についてはどうお考えですか。
深澤編集委員:
そこはちょっと微妙ですね。女性のことを知りもしないで語るなよと言われそうですが、今の女性は忙しすぎるように見えます。既婚の女性は仕事に家庭に忙しいし、ママともなれば子育ても加わり、多忙を極めていますよね。その上、スポーツもやれとは私の口からは言えません。そこはあくまで個人の価値観や生き方のスタイルに任せる、ということなんだと思います。その意味で「ゴールデン・スポーツイヤーズ」の3年間でスポーツが市民にとって、より身近なものになることを期待したいですね。

深澤 献編集委員 プロフィール

1989年、ダイヤモンド社入社。
『週刊ダイヤモンド』記者・副編集長を経て、2016年4月に『ダイヤモンド・オンライン』編集長に就任し、2017年4月には『週刊ダイヤモンド』編集長も兼任。
2019年4月より、週刊ダイヤモンド編集委員 兼 デジタルメディア開発部長。
社会人になってからマラソンを始め、現在はフルマラソンに積極的にエントリーするように。サブ4の記録も持つ。

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