コラム

スポーツを「する」までのハードルを下げることが課題

企業とDo Sports


『AERA』編集長 片桐圭子氏

週刊誌『AERA』といえば表紙は旬な人物。トップアスリートを起用することも多く、スター選手の人物像に迫る記事も掲載しています。そこで『AERA』の片桐圭子編集長に、自身のスポーツとのかかわりに加え、どのようにすればスポーツを「みる」だけでなく、「する」につながるのかという発想についてうかがいました。

『AERA』とスポーツのかかわり

編集部  :
これまで『AERA』ではスポーツもしくはスポーツ選手をどのような位置付けで考え、記事として扱ってこられたのでしょうか。
片桐編集長:
『AERA』は創刊以来、どのメディアよりも「人」に注目した誌面作りをしてきました。時代を象徴する人物に登場いただく表紙には、トップアスリートもたびたび登場しますし、もちろん記事でもそうです。

主な読者は30~50代の現役世代。常に自らの限界に挑戦するアスリートの姿を、自分に置き換えて読まれる方も多いのではないかと思います。アスリートが失敗や逆境を克服し、立ち直っていく姿は、日々職場で悩み、時に壁にぶつかっているビジネスパーソンの方々にも共感を得られるコンテンツだと思っています。

「アスリートが最も活躍している時期に登場いただくことにこだわっています」という表紙。

創刊以来続く名物コーナー「現代の肖像」。
時代を象徴している人物を取り上げるノンフィクション。

スポーツをすることの障壁

編集部  :
ところで、片桐編集長は何かスポーツをされていますか。
片桐編集長:
恥ずかしながら子どもの頃から運動が苦手で、私自身はスポーツとは無縁の生活を送ってきました。もちろん体を動かすことは大事なことで、自分なりに体は鍛えたいと思っていますが、スポーツジムなどに通っても長続きしないタイプです。
編集部  :
ビジネスパーソン、特に女性は同様の方が多いと思います。ご自身の体験を通じて、スポーツをする上で何がボトルネックになっているとお感じですか。
片桐編集長:
実体験からお答えするなら、何か運動をする場合、別の場所に移動することが1つのハードルになっているように感じます。
例えば10分だけ体を動かしたいと思っても、まずその場所に行かなければならないし、着替えて、終わったらシャワーを浴びて、化粧を直して、ようやく家庭もしくは職場に帰る、とさまざまな続きを経なければならない。これ、結構なハードルじゃないでしょうか。
これらのハードルをいかに低くするか、もしくは克服するかが、課題だと思っています。
編集部  :
時間の制約からスポーツに時間が割けないということもあるでしょうか。
片桐編集長:
私も含め、時間を言い訳にする人は多いと思いますが、実際はそうとは言いきれないと思っています。『AERA』編集部の子育て中のあるデスクは、毎夜、子どもが寝た後でランニングをしています。それをするには並外れた意志の強さがないと、と思ってしまいますが、本人は走るのが好きで、「意志の強さ」は必要ないんです。

子どものスポーツの習い事をママがスポーツを始めるきっかけに

編集部  :
女性が運動を始めるきっかけには、何が必要だと思いますか。
片桐編集長:
日常生活のサイクルの中にスポーツをいかに組み込むか、というところがポイントだと思います。たとえば、子どもがサッカーやバレーボールなどのスポーツを始めると、その親も同じもスポーツを始めるということは結構あります。
子どもがスポーツをする時にはその練習や試合に親も付き添うことになりますので、その待ち時間を利用して、パパ同士、ママ同士もスポーツをするという流れが生まれているんですね。私の大学時代の友人は、息子がサッカーを始めてからママチームでサッカーを始めたし、先日仕事でご一緒した女性は、お子さんと一緒にタグラグビー(ラグビーをもとにした初心者向けのスポーツ)を始めたと話していました。これなどは生活サイクルにスポーツを取り込む参考になるのではないかと思います。

パラスポーツが新スポーツとして浸透する可能性も

編集部  :
来年から「ゴールデン・スポーツイヤーズ」と呼ばれる3年間が日本で始まります。前の2つは「みる」イベント、最後のWMGは「する」イベントです。『AERA』では、3年間続く国際的なスポーツイベントをどのように取り上げるお考えですか。
片桐編集長:
これまでと同様に、各イベントの競技で活躍する選手には注目しますし、大会の運営なども取材をしていく予定です。その中で今、特に注目しているのはパラリンピックの競技です。パラスポーツと言うと福祉的な意味や社会貢献の切り口で捉えられることが多いのですが、実は競技としてもとても楽しく、面白いものだということに、遅ればせながら気づきました。
たとえば、ウィルチェアーラグビー(車椅子ラグビーとも呼ばれる)は車椅子同士がぶつかり合う時の衝撃音や振動などが観客にも伝わってきて、非常にエキサイティングです。また、ボッチャという競技は、目標とする球に自分の球をどれだけ近くに寄せられるかを競う種目で、選手は重度の障がいを抱えています。その人たちがまるで神業のようなプレーを見せてくれます。
パラ競技で多くのスター選手が出ることは間違いありません。そうしたスター選手の取材はもちろんやっていきます。
というと「みる」スポーツの域を出ないと思われるかもしれませんが、一般の人もそれに触れることで興味を持ち、自分でもやりたいと思う人も増えるでしょう。
編集部  :
パラリンピックも新種目として次第に一般の人にも広がっていくようになるとお考えなのですね。
片桐編集長:
どの種目もルールがシンプルなので見ていてわかりやすく、新しいスポーツとして純粋に楽しめます。これなら自分でもやれるのではないかと思う人も多いと思います。

スポーツができる環境なら徒歩圏内にある

片桐編集長:
一方で、スポーツができる場所を「知る」ということも大切なのではないでしょうか。
地域の小学校ではグラウンドや体育館を一般に開放しています。しかもボールやラケットなど運動用具も備えてあって、借りられます。誰もがスポーツをやろうと思えば徒歩圏内にその環境があるわけです。
ところが多くの人は頭でわかっているけれど、自分がスポーツをするという発想に結びついていないですよね。今後はスポーツをする環境がみなさんの身近にあるということを知らせることも、大切ではないでしょうか。

スポーツを軸にした地域コミュニティの形成に注目したい

片桐編集長:
個人的には、地域でスポーツが盛んになることによるコミュニティの形成にも注目しています。ある地域ではバドミントンが強いとか、ある地域では卓球が強いといったように、スポーツ種目を軸に世代を超えた地元の交流が盛んになっていく、というようなことです。
編集部  :
今、注目されている動きや取り組みなどがありましたら教えてください。
片桐編集長:
サザンオールスターズの桑田佳祐さんが主催されているボウリングの全国大会「KUWATA CUP」が話題ですよね。
参加者が一堂に会して競うのではなく、全国のボウリング場をネットワークして、各地域で一般の人がプレーしたスコアを全国で競うという方法は非常によく考えられていると思います。こうした仕掛けで地域のボウリング産業を盛り上げていくことは地域創生にも繋がりますし、わざわざ遠い場所に出かけるハードルもなくしています。
もう1つは「盆踊り大会」のような感覚で、地域でスポーツ交流が開催されるようになると、地域活性化につながるということです。私の自宅のあるエリアでは毎年、父兄や商店街の人たちだけで夏祭りを開催しているのですが、そのメインイベントである盆踊りを子どもにたちに教えるのは、学校ではなく地域の方々なんです。
そのような仕組みがスポーツを軸にできれば、老若男女を問わずスポーツに参加しやすくなるように思います。
編集部  :
スポーツを盆踊り大会のように地域でつくる行事にするという発想は斬新です。都市部であろうと地方であろうと、幅広い人がスポーツに親しむようになるうえで大切なのは、「地域」の繋がりということですね。
片桐編集長:
人の暮らしは地域で営まれていますから、スポーツを市民の間に根づかせるにも地域を基盤に考えるのがいいと思います。ただ、そのためには一人ひとりがスポーツを始めたくなるきっかけが必要です。

その意味で、日本で世界的なスポーツ大会が3年間、連続で行われることは国民のスポーツへの関心を高めることが期待できます。特に東京オリンピック・パラリンピックの翌年に、市民が様々な競技に参加するWMGが開催されるというのは、それまでスポーツをしていなかった人も始めるきっかけとして非常に良いタイミングですね。

片桐 圭子編集長 プロフィール

1995年、朝日新聞社入社。ASAhIパソコンでIT業界を、AERAでは女性、子ども、教育、働き方、事件、ベンチャー企業などを幅広く取材。副編集長時代は表紙担当としてブッキングや撮影の指揮を執る。
朝日新聞宇都宮総局(警察担当)、教育ジュニア編集部、宣伝プロモーション部長などを経て、2018年9月から現職。副編集長だった2012年にロンドンオリンピックを1週間にわたって取材した経験がある。

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