コラム

スポーツは地方創生の核となる(後編)

企業とDo Sports

東京オリンピック・パラリンピック、ワールドマスターズゲームズ関西など、国際的なスポーツ大会を目前に控え、期待が高まるスポーツによる地域振興。

地方創生に注目するビジネスメディア『JBpress』のファウンダーで解説主幹の川嶋諭氏は、高齢化社会の日本においてスポーツによるコミュニティ形成ことが重要といいます。今回は、いかにスポーツを地域のビジネスにつなげていけるかについて、お話をうかがいました。

ある時は逃げ場、ある時は自己鍛錬の道場

編集部 :
川嶋主幹にとってスポーツの楽しみは何ですか。
川嶋主幹:
まずは精進ということですね。生活を律してコツコツとトレーニングをしていれば、体力も技術も向上して、それが成績となって表れる。わかりやすく言えば、努力が報われるということです。
特に50歳を過ぎると運動をするかしないかの差は格段に大きくなります。大会という大会で好成績を出していた実力者も50代になってトレーニングをしなくなると、どんどん衰えていくのがわかります。
一方で、私のように大した選手じゃなくても50代になってなおコツコツとトレーニングしていると、どこかのタイミングでそんな実力者に勝てる日がくるんです。それがわかっていたので、私は50代で結構頑張りました。その甲斐あって、今は勝ちまくりです(笑)
編集部 :
するかしないかで、実力が逆転するんですね。
川嶋主幹:
それだけではありません。私には高校ではそこそこ強いテニス部にいた息子がいまして、先日同じテニス大会に出場したんですね。そうしたら息子と試合で当たってしまったんです。それでどうなったと思います? 私が勝ちました。ちなみに息子はまだ大学を卒業して2年ほどですよ。サーブの速さや俊敏さでは若者にかなわなくても、技術の蓄積で勝てるんです。それがスポーツの面白いところです。
編集部 :
それは嬉しかったでしょう。
川嶋主幹:
努力は裏切らないんです(笑)。よくスポーツなどより仕事が生きがいと言っている人もいますが、ほとんどの人が65歳になったら定年ですからね。ということは、生きがいといってもせいぜい人生の中の40年ほどのことです。しかしスポーツに定年はありません。仕事よりスポーツを頑張ったほうが、人生は豊かになりますよ。

編集部 :
言われてみるとそうかもしれません。
川嶋主幹:
言い方は悪いかもしれませんが、現役世代にとっては、スポーツは良い「逃げ場」になります。平日に嫌なことがあっても「週末には仲間とスポーツをする」と思えば、頑張れるじゃないですか。

そしてスポーツのいいところは「グッド・ルーザー」になることを学ぶ、人間形成の修練の場でもあるということです。負けた時にも相手を称える姿は、人間として美しいでしょう。そんな人格を身につける上でも、スポーツはいい精神修養の場だと思います。

スポーツをいかにビジネスにするかを考える

編集部 :
先ほどスポーツは地方活性化の核になるとおっしゃいましたが、スポーツで地方創生を成功させるには何がポイントになるでしょうか。
川嶋主幹:
スポーツをいかにビジネスにできるかということでしょう。冒頭、宮崎県の綾町の事例を紹介しましたが、町長が構想をぶち上げ、議会がそれを認めて、病院を作るより世界のトップアスリートが真剣なトレーニングに使えるような立派なスポーツ施設を作ることを選んだわけです。

もちろん「こんな田舎町でなぜスポーツ施設に巨額のお金を投じるんだ」という反対意見もあったことでしょう。しかし町長というリーダーが将来のビジョンを描いて、推進した。それに応えた議会の英断も大したものです。一歩を踏み出す勇気が、地方創生を成功させていくんだと思います。
編集部 :
今、綾町はどうなっているんでしょうか。
川嶋主幹:
国内はもちろん世界的なアスリートが合宿地に選ぶようになり、今ではスポーツ合宿をするなら綾町といわれるところまで持って行きました。最初からそこまで考えた上で、それにふさわしい最先端の、本当に綺麗なスポーツ施設を作った。そのことでアスリートと町民の交流が生まれ、町全体にスポーツの意識が高まっています。

地方創生というと地域産品や文化、工芸品ばかりが主役になりますが、スポーツもその地域の特性に合った形でプランを考えれば十分、主役になるんです。雪が積もる場所ならスキー、暖かい場所なら冬の合宿地にする。海も山もあるなら、トライアスロンだって、サイクリングだっていいし、温泉があるなら温泉とスポーツを組み合わせた施設やイベントを考えてもいいでしょう。それぞれの地域にあったスポーツがあるはずです。
編集部 :
綾町以外に注目すべき地域の取り組みはありますか。
川嶋主幹:
長野県ではこのところ、サイクリング愛好家の人たちで賑わっています。瀬戸内海を渡る「しまなみ海道」がサイクリングの聖地になっていることに着目した長野県内の企業やマスコミ、NPOなどが行政を巻き込んで、信州にサイクリング客を呼び込もうと「信州やまなみ街道」というプロジェクトを始めたからです。
編集部 :
他地域の取り組みをモデルにしたわけですね。
川嶋主幹:
それも地方創生のあり方です。全国の自治体がスポーツをテーマにしたお客さんの呼び込み競争をする中で、全国のロールモデルになるような面白い仕掛けが誕生すると、それを真似る自治体が現れる。そのようにして全国にスポーツの輪が広がっていけば、スポーツが国民の身近なものになって定着していきます。そうすると健康寿命が延び、地域経済も活性化する流れが生まれるでしょう。
編集部 :
各地でスポーツを生かした町づくりのアイデアが問われますね。
川嶋主幹:
地方創生というのは、結局のところアイデア勝負なんです。私がメディアとして注目していきたいのは、各地方自治体が知恵を絞って、積極的に動き出す姿です。地域がその土地の特性を生かした新しいサービスや施設を作って何かを仕掛けたり、新しい仕組みをつくったりする動きを見つけたら、その情報をどんどん発信してバックアップしていきたいと思っています。

全国にアイデアの競い合いが起こる土壌を作るには、これから始まるゴールデン・スポーツイヤーズは好機。中でも市民が主役となるWMGは、重要な意味を持っていると私は思っています。

川嶋諭氏 プロフィール


早稲田大学理工学部卒、同大学院修了。日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。
1988年に『日経ビジネス」に異動後20年間在籍した。副編集長、米シリコンバレー支局長、編集部長、『日経ビジネスオンライン』編集長、発行人を務めた後、2008年に日本ビジネスプレス設立。
『JBpress」を立ち上げ編集長を務めた後、現在は解説主幹として活躍。週末にはテニスをするのが日課。

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