コラム

トップアスリート「アジアの鉄人」の語る人生とスポーツ(1/2)

アスリートに聞くDo Sports

トップアスリート「アジアの鉄人」の語る人生とスポーツ


室伏重信中京大学名誉教授

室伏重信 中京大学名誉教授は、陸上のハンマー投において、日本人選手が世界の強豪と互角に競い合う時代を切り開いたパイオニアの一人として活躍し、「アジアの鉄人」と称えられました。

自身は4度のオリンピック日本代表となるほか、指導者としては長男の広治さん、長女の由佳さんをはじめとする多くのオリンピック日本代表選手、トップアスリートを育成。

限界まで記録に挑戦する勝負の世界に身を置いてきた「アジアの鉄人」にとってのトップアスリートのスポーツは、厳しくもクリエイティブな奥深さのあるものでした。

 

マスターズ大会の思い出

編集部 :
今回は、現役引退後の活動についてお伺いします。
現役引退後、いつごろ、どのようなきっかけで陸上のマスターズ大会に参加されたのですか。
1993年 に宮崎で開催された、第10回世界ベテランズ陸上競技選手権大会でのハンマー投の記録が確認できますが、これ以前もマスターズ大会に参加されたことはあるのでしょうか。
室伏教授:
宮崎の大会はベテランズ、今でいうマスターズ陸上競技大会だったんですね。
日本で初の陸上競技世界ベテランズ大会があるから出てみないかということを言われました。
現役を終え8年経っていますし、年齢も50才に近いことから出場しようかどうか迷っていましたが、その後も出場の依頼が何度かあったことから出ることに決めました。大会の4、5か月前から練習を始め、一般の愛知県大会、東海選手権にも出て準備をしました。
結果は63m46cmで、ハンマー投 45~49歳の部における世界新記録を達成し2位に大差をつけ優勝しました。
50歳以上のハンマーは重さが変わって軽くなるんです。現在もマスターズ競技は49歳まで使用するハンマーは、一般の陸上競技の大会と同じ重さの7.26kg(16ポンド)です。ですからよくこの記録を投げたなと思いました。
当時その記録は、一般の日本のランキングの中でも、6番とか7番ぐらいだったんです。
ちなみに、現在はマスターズ陸上の大会には腰に問題があり出場していません。

トップアスリートは、アイディアとひらめきを身体で表現するクリエイター

編集部 :
ご自身の現役時代、スランプに陥ったとき、フォームを徹底的に研究して、記録を伸ばすことに成功した経緯を「アイディアとひらめきを身体で表現する」とされています。
室伏教授:

現役時代の室伏重信名誉教授

私のハンマー投げは芸術家の創作活動と似ています。
遠くにハンマーを飛ばすアイディアを出し、そのアイディアを身体で表現してみる、この繰り返しを20年近く行って大幅な記録更新ができたのです。
勿論、記録を伸ばすためには、体力を高め、精神的な安定や集中力、更にはコンディショニングも並行して行っていかなければなりません。
私は大学3年生から社会人1年まで長く苦しいスランプを経験しました。そしてそのスランプの原因がハンマー投げ技術にあることに気づいたのです。
そこからハンマー投げの動きの研究が始まりました。8ミリのカメラで自分の投げを撮ってもらい、その映像を徹底して見ていきました。
1日7~8時間は普通でした。また他の選手の映像も比較して見ていくうちに多くのアイディアが生まれるようになったのです。そのアイディアを身体で表現するのです。
ハンマーを持たず畳の上で気づいたことをやってみるのです。そうしているとアイディアは泉のように湧いてくるのです。
はじめの頃はまとまるまで3週間近くかかりましたが、そこでハンマーを投げに行くのです。そして8ミリカメラで撮ってもらうこと、この繰り返しです。 この時が私のハンマー投げの本当のスタートだったと思っています。それまではただ沢山練習をしていただけだったんです。記録も大幅に伸びていくこともあって、力の効率を考えたこのハンマー投げ技術の研究に没頭していきました。

 

スポーツの、「作り出す」面白さ、奥深さ

室伏教授:
より良い動きを見つけだそうとするとアイディアが出てくる。
そのアイディアを身体で表現しハンマーがどのように飛んでいくかを確かめる。この繰り返しです。ある意味ではノーベル賞をもらう研究者みたいなものですね。コツコツとずーっとより良い動きを探し求めるのですよ。
この投てき技術の高まりを求めていく中、「人がいかにしてハンマー頭部に大きな力を与え加速を促すか」というハンマー投げ技術の考え方の奥の深さを知りました。これを実現させるためハンマーを投げ続けてきたわけです。
ですからオリンピックのような大きな試合だけでなく小さな試合でも、その時点の高まった動作を試しその結果がどうなのか楽しみで出場していたのです。
そこが他の競技者と違うところでしょうか。ものを作り出すことが面白いんですね。
今も投てき選手の指導を少し行っておりますが、そのモノづくりの精神で伸びて行く選手がいることに喜びを感じるのです。
さらにハンマー投げの技術をベースとし、いろいろなトレーニングの工夫をさせ次世代のアスリートをつくっていこうと思っています。

室伏重信 中京大学名誉教授プロフィール

・1945年生まれ 高校入学後、本格的に陸上競技を開始
・1968年 日本大学経済学部経済学科卒
・同年    大昭和製紙株式会社 入社
・1972年 ミュンヘン大会で、オリンピック初出場(ハンマー投 8位)
・1977年 日本大学文理学部(三島)講師 以降、競技生活と並行して、指導者・研究者として活動
・1980年 中京大学体育学部 講師
・1983年 中京大学体育学部 助教授
・1986年 第10回アジア競技大会(ソウル)優勝、競技生活を引退
・1989年 中京大学体育学部 教授
・2011年 中京大学体育学部 名誉教授

現役時代は陸上のハンマー投で4度のオリンピック日本代表となるほか、アジア競技大会5連覇の偉業を達成。
「アジアの鉄人」と称された。
指導者として、長男の広治氏、長女の由佳氏をはじめとする数多くのトップアスリートを育成。

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