コラム

トップアスリート「アジアの鉄人」の語る人生とスポーツ(2/2)

アスリートに聞くDo Sports

トップアスリート「アジアの鉄人」の語る人生とスポーツ2


現役時代の室伏重信名誉教授

陸上のハンマー投競技で世界中の強豪と頂点を競い合った「アジアの鉄人」こと室伏重信教授。

ごくわずかなトップアスリートしか到達できない境地、「ひらめきとアイディアを体で表現する、創作活動」に打ちこんだその現役時代から、トップアスリート以外のすべての人の一生とスポーツの関わりについても、ある理想を持っていました。

 

80代、90代でもスポーツを楽しむ人々

編集部 :
マスターズ大会では、現役と同じハンマー重量、条件で出場されたのですか。
室伏教授:
マスターズ陸上でのハンマー投げは年齢で重さが異なります。
私の出た1993年の宮崎の世界ベテランズ大会は私が49才でしたから7.26㎏で一般男子ハンマーの重さと同じです。
50歳からは、ハンマーが軽くなり80才では3㎏と最も軽いものになります。
私は国際マスターズの委員もやっていた関係でアジアマスターズ(台湾)に視察に行ったことがありました。
80歳以上のハンマーの試合を見ていたのですがその前に入場してきた選手約30名の中に杖を突いてきた選手が2名おりました。
この2人の選手はどのようにして投げるのか興味を持って見ていました。当然回転はできません。
サークルの中に入り立ち、その場でハンマーを前後に振り投げたのです。記録は多分5m前後だったのでしょう。
それでも楽しそうに試合をていました。

人間は、刺激があってこそ生き生きとする

編集部 :
高齢の方も出場されていた姿で、生涯スポーツについて強く印象付けられましたか。
室伏教授:
人は心と体に刺激を与え適応させることで行動力を高めたり低下を防いでいます。
体(体力)でいうならば筋肉系(力)、神経系(速く動く、バランスをとる)、循環器・呼吸器系(持久力)、骨と靭帯間(柔軟性)に刺激を与えることです。そのためにスポーツや運動を通じ、無理なく刺激を与え適応させていく。そうすることで体力の向上を図り、衰えを防ぐことができるのではないでしょうか。
また、心も体と同じように刺激を与え続けなければ衰えます。日常生活でも自らが企画し実践していくことでも心に刺激が掛かります。高齢の人が競技スポーツで目標を持つことは、心にも刺激を与えます。
競技スポーツをやっていると、そこに目標ができて、頑張る力も、活力も、いろんなものが生まれてくる。そうして元気な高齢者が多くいることは日本全体にとってもプラスです。
WMGのような大会は、個々の選手が上達したいという気持ちと楽しさを持たせてくれる、さらには友人も作ることが出来るといったメリットがありますね。

目標を持って生涯スポーツに打ち込む人は魅力的

編集部 :
トップアスリート出身ではない方で、生涯スポーツに取組む、印象深い方がいましたら教えてください。
室伏教授:
高齢の、90歳前後の方で100mを全力疾走したり、跳躍や投擲をしている姿を見てすごいと思いました。
また私の知人で90才のゴルフが好きな方です。両膝の痛みが激しくなり84才の時に両膝に人工関節を施術しました。なんと手術後2か月でゴルフ練習場にやってきたのです。
そういう人を見ていると素晴らしいと思うわけです。特に高齢者でこのように、頑張っている人を見ると自分自身も可能性を感じます。また高齢者がマスターズの大会で勝つこと、あるいは記録を伸ばしていくことに目的を持ち頑張っていることが多くの方に感動を与えるのです。
今回のWMGに参加する方も、生涯スポーツに取り組むきっかけとなればと思っています。
母は90歳の誕生日のときに腕立て伏せを10回やりました。スクワットもちゃんとできますし、階段も一人で登っていたのですが、腸閉塞で手術をした後、院内で転倒し大腿骨の骨折をしてしまいました。
その後施設にお世話になったのですが、食事から、車椅子やその他すべてやって頂き、私も安心していました。
しかし心も体も一気に衰えてきました。そのとき思ったことは、刺激のないところに身を置くと、心も体も衰えてしまうということです。

すべての人が、多様なスポーツに取り組める社会に

編集部 :
アスリートのセカンドキャリアについて、どのようなことが課題だとお考えですか。
また、高校や大学を卒業すると急激にスポーツをする機会が減ることについて、お考えをお聞かせ下さい。
室伏教授:
 

室伏重信名誉教授

セカンドキャリアは企業が選手として雇ってくれるのは、陸上競技では長距離選手以外はほとんどおりません。
他の種目は日本記録を持っているような者でもなかなか仕事に就けません。
ですから私は、日本も、ヨーロッパのようなクラブ制度にするべきと思っています。ヨーロッパは子供から高齢者まで、クラブに行き運動するのです。多くのクラブではプール、陸上競技、サッカー場・・・要するにオリンピック種目のほとんどが網羅されているところもあり、また専門種目のコーチを置いているところもあります。
私の知っているマスターズ陸上の投てき選手は、投げる場所がなく公園で人がいないことを確かめながら砲丸投げの練習をしている方もおられ、これは他の種目も同じように練習する場所がないのです。
私はヨーロッパのような、地域型のスポーツクラブ制度をつくることが夢です。ヨーロッパでは大きな大学などがスポーツクラブのような形態をとっているところもあります。
社交場にもなりますし、体育の授業もそこでできるようにするのです。そうなれば学校はグラウンドを持たなくていいわけですから。だいたい一つの小学校・中学・高校がヨーロッパのクラブの設備を持てるわけがありません。
指導している先生も専門家ではない人が殆どです。人口に応じクラブをどこに持っていくかという、町づくりからスタートしていかなければなりません。これが可能となれば、一気に日本の生涯スポーツの発展が望まれるのです。

 

編集部 :
子供から高齢者まで、どこに住んでいる人も、あらゆるスポーツの種目に取り組める環境を作りたいということですか。
室伏教授:
小さい子供から高齢者まで、スポーツに取り組める環境を作るということが今の日本に欠けているところでではないでしょうか。
これからの日本人の健康と体力増進をすすめていくところになるわけですよ。当然クラブの利用料も無料に近いものにしていくべきです。
編集部 :
海外はクラブ制度で、部活制度は日本くらいですね。
室伏教授:
日本の場合、高校や大学までは部活に参加していれば試合に出ることは可能です。
しかし卒業後にはスポーツをしたくとも所属するところもなく競技会に出ることが出来ないのです。
スポーツに取り組める施設が多くできれば、現在より多くの種目から、オリンピックに出場するような優秀な選手が出現したり、生涯スポーツの活性化にも繋がるはずです。
当然、ワールドマスターズゲームズをはじめその他多くのスポーツも参加者が増え、スポーツ全体の活気が出てくるのではないでしょうか。

すべての人が、多様なスポーツに取り組める社会に

編集部 :
WMGは、一般の方がトップアスリートと同じフィールドで競技できる可能性があります。一般の方の参加の意欲が出ると思われますか。
室伏教授:
そうかもしれませんね。陸上競技や競泳などは、結果が記録として出てきますので、自己の記録に挑戦していく意欲も出て参ります。マスターズ陸上では何歳から何歳までというクラス分けがあって、そこに日本記録、アジア記録、世界記録もあって、いま何番目に位置するかすぐ分かるようになっています。
高校や大学を卒業して、実業団に登録できなかった人が、WMGなどのマスターズ大会に出場できるようになったではないですか。是非このチャンスを生かしてください。
また観光とセットで参加する方も多いと思います。大会も出て、そしてそのあと観光。京都、奈良をはじめ近畿を十分楽しんでいただきたいと思います。またWMGの多彩な種目の一覧を見ていたら、「あ、これ自分がやれるな」というのがありますよね。
これだったらやれそうだな面白そうだなというものがあるはずですよね。今までやっていなかった競技にもぜひ挑戦してみて下さい。

WMG2021関西の特徴

多様な種目に挑戦できる
WMG2021関西は、非常に多様なスポーツの試合が開催されます。
水泳やテニスなどのメジャーなスポーツはもちろんのこと、多様な種目で世界の人たちと競い合い、交流することが可能です。

観光名所の多い関西地方で開催
WMG2021関西では、美しい町並みが人気の京都市、神戸市の競技場のほか、琵琶湖周辺などの豊かな自然環境を活かした場所でも競技が実施されます。
歴史と文化、自然環境、食など、観光地として魅力あふれるエリアで、楽しくスポーツに挑戦できます。

WMG関西 会場・競技についてはこちら

室伏重信 中京大学名誉教授プロフィール

・1945年生まれ 高校入学後、本格的に陸上競技を開始
・1968年 日本大学経済学部経済学科卒
・同年   大昭和製紙株式会社 入社
・1972年 ミュンヘン大会で、オリンピック初出場(ハンマー投 8位)
・1977年 日本大学文理学部(三島)講師 以降、競技生活と並行して、指導者・研究者として活動
・1980年 中京大学体育学部 講師
・1983年 中京大学体育学部 助教授
・1986年 第10回アジア競技大会(ソウル)優勝、競技生活を引退
・1989年 中京大学体育学部 教授
・2011年 中京大学体育学部 名誉教授

現役時代は陸上のハンマー投で4度のオリンピック日本代表となるほか、アジア競技大会5連覇の偉業を達成。
「アジアの鉄人」と称された。
指導者として、長男の広治氏、長女の由佳氏をはじめとする数多くのトップアスリートを育成。

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