コラム

スポーツをすれば人生はもっと豊かになる

アスリートに聞くDo Sports

スポーツをすれば人生はもっと豊かになる


大日方邦子さん

2018年の平昌パラリンピック日本選手団団長 大日方邦子さんは、日本人初の冬季パラリンピック金メダリストです。
(アルペンスキー・滑降)3歳で事故に遭ってからも、義足で思い切り体を動かすアクティブな子ども時代を過ごした大日方さんにとって、目標に挑戦して「できないことができる」達成感を得られるスポーツは、生き方そのものとなりました。
2010年に競技生活を引退後、スポーツ、教育分野で有識者として参画。スポーツによるインクルージョン社会の実現や、生涯スポーツの普及に取り組む立場から、生涯スポーツの祭典であるWMG2021関西に寄せる期待を伺いました。

 

「できない」が「できる」に変わった逆上がりの達成感

編集部  :
大日方さんにとっての、スポーツをする意義は何でしょうか?
大日方さん:
私にとってのスポーツとは、心が解放されていくようなものです。
競技を長く続けていると、いろんな自分に向き合うことになる。普段、自分でも気が付かない己が見えてくるのが、すごく面白くて。
日常の中で身にまとっている、余計なものが全部ぱあっと剥がれる。己を知ることもできますし、目標を持つことで、その目標にどう到達するのかとチャレンジする。スポーツは生き方そのものだと思います。
編集部  :
スポーツをしようと思っても、実際に始めるにはハードルがありますよね。
大日方さん:

大日方さんの子供時代

私自身もそうなんですけれども、スポーツをはじめる最初の一歩は踏み出しにくいことがありますよね。
多くの人が日頃スポーツだけに打ち込んでいるわけではないので、(スポーツ以外の仕事などを終えた)その残りのちょっとしたエネルギーを、スポーツを始めるためにかけるのが難しい。そこを押してくれるのは、家族や同僚の人、友達など一緒に始める人かもしれません。
今まではスポーツを観戦して終わりだったのを、ちょっと自分もやってみようかなという気持ちに繋げたり、ボランティアとして大会運営で支えたり。
スポーツには多様な関わり方ができるということを、皆さんに知っていただきたいと思います。
どこが入口でもいいので、スポーツって面白いよねという人が、まず増えてもらうことが大切かなと。

 

編集部  :
スポーツはいいものだと思った、最初のきっかけはなんですか?
大日方さん:
6歳のときに鉄棒の逆上がりができるようになった瞬間でした。
見よう見まねで何度もやっていたら回れたんですよ。義足はそれなりに重いものなので、足を地面から浮かせるのが難しい。
やったらできたという小さな達成感がスポーツを楽しいと思ったきっかけです。義足だからできないことがあるとは思っていませんでした。できなかったことがちょっとできたという小さな達成感を得ていくことは、とても人生を豊かにしてくれます。わかりやすいです、スポーツって。
最初は1キロ走ったら息があがっていたのが、毎日続けていたら気が付けば3キロ走れるようになる。じゃあ次、この3キロのタイムを1分ぐらい縮めようと、目標を立てること自体も楽しいですよね。

スポーツは「超人」だけのものではない

編集部  :
障がいがある人のスポーツを「みる」「ささえる」ことも重要ですが、「する」分野でのインクルージョンはどのくらい進んでいるでしょうか?
大日方さん:
2020年に東京パラリンピック開催が決まってから、障害のある人たちのスポーツ全体への関心は高まっています。
例えば、リオ大会で日本選手がメダルをとったボッチャやウィルチェアーラグビーなどが知られるようになりました。ただ、実際にやってみる人達がどのぐらい増えるのかが、日本にとって大きな挑戦だと思います。
オリンピック、パラリンピックを開催した国でも、スポーツ実施率が上がったというエビデンスは実はほとんどありません。多くの人は選手を「超人」、自分とは違う世界だと感じることもあり、「みる」や「ささえる」まではあっても、自分が「する」にまでは行きつかないことが1つの課題です。
日本がとてもラッキーなのは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの次の年に2021年のWMGがあることです。
勝ち負けがあることがスポーツの面白さの1つですが、自分の立てた目標に挑戦したり、家族や友達と一緒に参加する楽しみ方もあります。その機会が2021年にあるということです。

障がい者もそうでない人も同じ空間で何かを一緒にすることが重要

大日方さん:
現役時代に、パラリンピックを見た方から、「勇気や感動をありがとう」と言葉をかけられました。
パラスポーツをやっている人は、(体の)今ある部分、残された部分を生かすのがすごく上手なんです。
今ある部分で勝負することで、「人ってこんなに楽しめるのか」「ないところじゃなくて、あるところを生かしているんだ」という前向きなエネルギーを見ている人に感じ取ってもらえると思います。
編集部  :
海外と日本では、Doスポーツの環境についてどのような違いがありますか?
大日方さん:
日本では、障がいのある人とない人が一緒にスポーツをすることは、まだ当たり前でないと思います。
例えば、30年近く前にアメリカに滞在したとき、利用を断れらるんじゃないかとドキドキしながら地元のプールに行ってみたら、全く身構える必要がありませんでした。「義足なんだ、ふーん、どこで外す?」みたいな。(障がいのある人が同じ場所でスポーツをすることに)皆さん慣れているんですよ。
一緒にスポーツをやってしまえば一気に解決するんです。私がスキーの4人乗りのリフトで、たまたま誰か知らない人と乗り合わせて、「一緒にリフト乗れるんですね」というところから話がスタートする。
スキーというスポーツを同じゲレンデで楽しむから、その人と会話がはずむ。「乗れるんですね」の一言から新しい出会いがあるし、「こういうスキーヤーもいるんだな」「一緒にいて当たり前なんだな」という事を肌感覚として理解できたらいいと思います。
同じ空間で、何かを一緒にするということが、非常に重要な事だと思います。

WMGのアジア初開催に寄せる期待

編集部  :
2021年に関西で開催される第10回のWMGは、アジアで初めて開催されます。このことについてお考えをお聞かせください。
大日方さん:
色んなスポーツが楽しめるWMGをアジアで開催することは、欧米のスポーツを楽しむ文化が、アジアらしさとミックスされて、アジア全体に広がるよいチャンスだと思います。
WMG2021関西をきっかけに、世代や国境を越えてスポーツを楽しむことや、旅行の楽しみの1つとしてスポーツをすることが広まるといいですよね。
編集部  :
今までのWMG参加者は欧米の方が多いですが、日本ではまだスポーツツーリズムになじみがないですね。
大日方さん:
観光というと、いろんな遺跡を見て回るというイメージはありますが、旅先でスポーツをするというのはイメージにありません。でも、実は日本人も海外ではスポーツをしているんですよ。ちょっとラフティングを楽しんだり、ハワイでダイビングやゴルフをしたり。
編集部  :
確かに、日本人も海外では観光しながらスポーツをしていますね。国内では観光を意識して、スポーツをしないかもしれませんが。日本はこれだけ自然があって、スポーツをしてもらえる環境があるのに、もったいないですね。
大日方さん:
旅先でスポーツを楽しみたい旅行客の需要を、日本ではまだ受け入れる環境を作りこめていないように見えます。海外のお客さんだけでなくて、国内の観光客需要もたくさんあると思います。

大日方 邦子さん プロフィール

1972年  東京都生まれ
1976年  交通事故で負傷(3歳)
1989年  チェアスキーを始める(高校2年生)
1994年  リレハンメル大会でパラリンピック初出場(滑降 5位)
1996年  中央大学法学部卒業
1996年  日本放送協会(NHK)入局
1998年  長野大会で日本人初の冬季パラリンピック金メダリストとなる(滑降)
2007年  株式会社電通パブリックリレーションズ入社(現職)
2010年  競技生活を引退
2017年  早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程 修了
2018年  平昌パラリンピック 日本代表選手団 団長
滑降、大回転などチェアスキーの複数の種目に取り組み、パラリンピックで5度日本代表となる。現在は複数のスポーツ、教育関連の委員、役員なども務める。

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