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「みる」だけなんてもったいない!今こそ、「みる」だけから「する」スポーツへ変わるとき(1/2)

企業とDo Sports

「みる」だけなんてもったいない!今こそ、「みる」だけから「する」スポーツへ変わるとき


早稲田大学 間野義之教授

2020年の東京オリンピック・パラリンピックの前後に、2019年のラグビーワールドカップ日本大会、2021年のワールドマスターズゲームズ(WMG)2021関西と、国際的なスポーツ大会が3年続けて日本で開催されます。
今回の3大会連続開催は、最初の2年間にトップアスリートの活躍を「みる」2つの大会で盛り上がった日本の人々が、その熱気が冷めない最後の年に、一般の人も参加できるWMGで「する」スポーツにも親しむ、またとない機会です。
3つの大会の、同じ国での連続開催は過去に例がありません。各大会の開催時期前後の一時的な盛り上がりで終わることなく、開催国の人々のスポーツへの関心の増加、経済効果など、長期間にわたる良い影響=「レガシー」も期待されます。
この貴重な機会を「ゴールデン・スポーツイヤーズ」と名付け、「する」スポーツ人口増加と、それに伴う日本社会の活性化に期待を寄せる、早稲田大学 間野義之教授にお話を伺いました。

 

スポーツは「気晴らし」から始まった

編集部 :
近年、トップの選手を応援する「みる」(See)だけのスポーツから、自分でも「する」(Do)スポーツへの転換がおきつつあり、健康増進やマーケティングのチャンスが期待されています。Doスポーツとはどういうものか、先生のお考えをご教示下さい。
間野教授:
スポーツの語源は、ラテン語の「deportare」(デポルターレ)です。
「デ」が「離れる」、「ポルターレ」が「港」。船を出して港を離れる、普段いるところからちょっと離れることが転じて、「気晴らし」という意味なんです。
「スポーツする」ということは、「デポルターレ」、「気晴らし」であると思います。
近年の社会の動向からすると、1896年の第1回近代オリンピックが始まってからの「近代スポーツ」から、「スポーツ」が、もっと広い、「気晴らし」の語源に回帰していくタイミングに来ていると思います。
そういった意味で言うと、近代スポーツの最高の祭典である東京オリンピック・パラリンピックと、次に繋がるワールドマスターズゲームズ(WMG)2021関西が、Doスポーツの定義の大きな転換期になることを期待しています。

史上初、「ゴールデン・スポーツイヤーズ」がやってくる!

間野教授:
ラグビーワールドカップは4年に1回、必ず夏のオリンピックの前年に、WMGは夏のオリンピックの翌年になるのはみんな知っているけれど、3つを同じ開催国で揃えるという発想はなかった。
今回は偶然ですが、3つの大会を同じ開催国で実施する「ゴールデン・スポーツイヤーズ」は次のフランス・パリにも引き継がれることになりました。
過去の調査研究を見ますと、オリンピックを開催した年、開催国のスポーツ実施率が上がるという、学術的な根拠がないんですね。ロンドン(2012年開催)のデータを見てもほとんど横ばいですし。オリンピック・パラリンピックは素晴らしいけれど、あまりにも局所的、短期間です。
ラグビーワールドカップ、オリ・パラ(オリンピック・パラリンピック)、WMGの3つをつなげることで、「みる」スポーツから「する」スポーツにつなぐこと、国民の行動変容が起こると示すことが大事だと思います。
編集部 :
「ゴールデン・スポーツイヤーズ」によって、開催国の人が「みる」スポーツから「する」スポーツへ移るのか。今回それが日本で成功すれば、次のフランス・パリより後も、3つの大会でもっと連携しようと広がるかもしれませんね。
間野教授:
2028年のオリ・パラ前後も「ゴールデン・スポーツイヤーズ」方式でいくのでないかという推測が出ています。
2026年にFIFAの男子サッカーワールドカップがカナダ・アメリカ・メキシコで開催、2027年にラグビーワールドカップ、2028年にロサンゼルスでオリ・パラ、2029年にWMGと、これらを全て北米で開催できれば、4年連続の「スーパー・ゴールデン・スポーツイヤーズ」となります。

※編集部注: 2027年のラグビーワールドカップ、2029年のWMGは、2018年11月時点では開催地未定です。

全ての人のためのDoスポーツへ

編集部 :
選手の応援だけの「みる」スポーツから、一般の人も「する」=Doスポーツの考え方が出てきたのはいつごろからでしょうか。
間野教授:
1975年、ヨーロッパ スポーツ閣僚会議において、「スポーツ・フォー・オール憲章」が採択されました。
それまでのエリートだけが行うスポーツから、この憲章が宣言する、誰でもスポーツに参加する権利があるというスポーツの大衆化が始まったのは、ここ40年くらいのことです。
編集部 :
アスリートではない人も、健康のために体を動かすことが重要という考え方は、いつごろから出てきたのでしょうか。
間野教授:
世界保健機関(WHO)が2014年に、身体活動の不足を、高血圧、喫煙、高血糖に次ぐ第4位の死亡に対する危険因子に挙げました。古くは1960年代に言われるようになった「運動不足病」の克服は、世界中の重要課題です。
編集部 :
Doスポーツは、健康にどのような良い影響があるでしょうか。
間野教授:
WHOの「健康」の定義は、「身体的、精神的、そして社会的に完全に満たされた状態」です。
スポーツをすることで身体的には、運動不足に起因する疾病の予防につながります。
精神的には、もともとの「デポルターレ」の言葉につながるような、気晴らしやストレス解消、爽快感を得られます。
社会的には、人的な交流、地域社会のコミュニティ形成、子どもたちの社会教育といった、社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の醸成につながると考えられます。
スポーツを「みる」だけでなく「する」こと=Doスポーツで、このような、WHOの定義での本来の「健康」を実現できる効果があると考えられます。
介護の分野では、体を動かす習慣で転倒を予防する研究があるほか、「低酸素トレー二ング」と「認知症予防」は関連があるのではないかという仮説があります。現在、この仮説の検証のため、高度4,000m級までの低酸素の環境を作れる施設が豊洲に建設中です。

間野教授プロフィール

1963年 12月2日 横浜市生まれ、1991年 東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。
2002年 早稲田大学人間科学部助教授に就任、以降、早稲田大学で専門分野のスポーツ政策論で教鞭をとる。
2009年に早稲田大学スポーツ科学学術院教授に就任、2015年に早稲田大学スポーツビジネス研究所所長(兼任)、現在にいたる。
文部科学省、スポーツ庁の関連機関をはじめとする、数多くのスポーツ関連団体の委員等を務める。
好きなスポーツは、硬式野球、テニス、ゴルフ、スキー、水泳のほか、イギリスやインドで人気がある球技のクリケット。

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